健康志向と即席麺を両立させた新ブランド誕生と市場逆転劇

半年で目標比200% “不健康”を覆した、カップヌードルPROの逆転劇

コロナ禍を経て、自宅での食事は「早く・安く・お腹いっぱい」から「自分の体をどう整えるか」へと静かに軸足を移し始めた。炭水化物や塩分を気にしながらも、忙しい日にはつい手が伸びてしまうカップ麺。その罪悪感と欲望のあいだに、細い綱のようなニーズが張られていた。そこに挑んだのが、日清食品株式会社の「カップヌードルPRO」という一手である。健康志向という大きな波を前に、長年愛されてきたブランドは何を守り、何を変えたのか。企画会議の議論、栄養設計と味づくりのせめぎ合い、そして発売後の結果までを追うと、単なる新商品の成功では語りきれない意思決定の物語が見えてくる。この物語は、「おいしさ」と「健康」という相反する価値をどう束ねればビジネスとして成立するのか、そのヒントを静かに教えてくれる。

目次

この物語の主役となる企業はどこか

これは、日清食品株式会社の物語。インスタントラーメンを世界で初めて商品化した「チキンラーメン」、世界初のカップ麺「カップヌードル」を生み出し、日本だけでなく世界各地で即席麺・冷凍食品・菓子など幅広い食品事業を展開しているグローバル企業である。国内即席麺市場では長年トップクラスのシェアを維持し、海外でもアジアや北米を中心にブランドを拡大してきた。一方で同社は、環境と健康を柱とする中長期環境戦略「EARTH FOOD CHALLENGE 2030」を掲げ、CO₂排出量や水使用量の削減といったESG目標と、健康価値の高い商品の開発を両輪として進めている。
こうした背景を持つ企業にとって、主力ブランド「カップヌードル」の将来像は経営戦略そのものに直結するテーマだった。生活者の健康意識の高まりを前に、「カップヌードル」を守ることは、同社の成長戦略とESG戦略を両立させることとほぼ同義だったのである。

何を学べるのか
  1. 健康志向が高まる中で、既存ブランドの世界観と価格帯を大きく崩さずに、新しい価値軸(高たんぱく・低糖質・減塩)をレイヤーとして重ねていく設計の考え方
  2. 市場データと生活者インサイト、社内の中長期戦略という三つの視点を往復しながら、商品コンセプトを段階的に絞り込んでいく意思決定プロセスと、その際に有効な評価軸の置き方
  3. 短期の売上だけでなく、ブランドの長期ポジションやESG目標との整合性まで見据えてKPIを設計し、組織横断でモニタリングすることで、単発のヒットで終わらせない仕組みのつくり方

どんな問題に直面していたのか

2020年前後、日本の即席麺市場はコロナ禍で一時的な需要増を経験したが、その伸びをけん引したのは値ごろ感のある袋麺で、カップ麺は前年割れという結果に終わった。[3] 一時的な“巣ごもり特需”の陰で、健康志向の高まりとともに「カロリーや糖質が気になるから、カップ麺の頻度を減らした」という声も聞こえ始めていた。手軽さと満足感を武器に成長してきたカップ麺は、「高カロリー・高糖質・高塩分」というイメージが強まり、ダイエットやボディメイクに関心の高い層からは敬遠されがちになっていたのである。日清食品株式会社にとって、50年以上続く主力ブランド「カップヌードル」がこのトレンドに取り残されれば、市場全体の成長余地も縮んでしまう。カップ麺カテゴリーの伸長が鈍れば、原材料・製造・物流といったバリューチェーン全体の効率性にも影響する。[3]
同社は環境と健康を軸とする中長期戦略「EARTH FOOD CHALLENGE 2030」を掲げ、CO₂排出量削減と並んで栄養バランスの良い商品開発を重要課題に位置づけていたが、都市部の働き手など健康意識の高い層にどう応えるか、その具体的な解は見えていなかった。味を薄くすれば既存ファンが離れ、価格を上げれば「たまのご褒美」からは外れるというジレンマもあった。「おいしさそのまま、でも健康負荷は下げてほしい」という相反する生活者の期待に応えなければ、ブランドはじわじわと選ばれなくなるという危機感が高まっていった。

どうやって解決しようとしたのか

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