全国を約束した夜、届かなかったリビングの壁が残した三つの教訓

春の朝、新聞の紙面に「全国放送っぽくふるまっていた」と書かれた謝罪が躍った。株式会社テレビ東京は、長年まとわりついた“見られない”という影を、配信で越えるつもりだった。翌日、TVerでリアルタイム配信が始まる。地上波の時間と同じ瞬間に、画面の向こうへ届く——そう語れば、物語は一気に明るくなる。けれど現実は、細部でつまずく。視聴はスマートフォンとパソコン中心で、テレビアプリでは見られない。遅延も生まれる。リビングのテレビが主戦場の家庭ほど、その差は残酷に見えた。静かな熱気は、静かな失望へ変わる準備をしていた。期待を先に上げた瞬間、未完成は欠点ではなく裏切りに変わる。
この物語の主役となる企業はどこか
これは、株式会社テレビ東京の物語。首都圏をキー局に、TXNという6局ネットワークを束ね、拠点大都市を中心に全国の70.2%の世帯をカバーしてきた。[1] けれど裏を返せば、地上波では届かない地域がある。だからこそ、番組が話題になるほど「見られない」が冗談として流通し、本人たちは笑いながらも、どこかで胸が痛んでいた。配信は、その痛みを別の形でほどく手段だった。だが、放送局が抱えるのは番組だけではない。広告、権利、端末——現実の縫い目は多い。なお、全国という言葉が大きいほど、縫い目は目立つのだ。“足りない”を自覚した企業ほど、言葉より先に体験を届ける難しさに直面する。
- 期待値設計は、提供できる体験の“下限”から逆算し、約束の言葉を小さく保ち先に口にしない
- 配信は単なるチャネル追加ではなく、権利処理・広告挿入・配信遅延・対象番組の例外に加え、視聴端末の制約まで含めた“新しい放送”の設計になる
- 話題化を狙うユーモアは拡散力が強いぶん、未達の部分も同じ速度で広がる。笑いを生む一文が、翌日からの不満の向き先まで決める
どんな問題に直面していたのか
株式会社テレビ東京は、都市型ネットワークとして効率よく全国の70.2%をカバーしつつも、残りの地域には地上波の入り口がない。[1] 視聴は「家のテレビ」から「手元の画面」へ移り、話題はSNSで先に燃え上がる。番組が跳ねるたびに、「見たいのに見られない」という声が増える。拡散は味方にもなるが、欠落を照らすライトにもなる。放置すれば、人気番組ほど“届かないブランド”として固定され、広告主にも説明が難しくなる。そこで同社は、TVerで地上波同時のリアルタイム配信を始め、全国から視聴できる状態を作ると決めた。[2] だが同時配信は、放送の延長ではない。配信の広告挿入は仕組みが異なり、映像や音楽は放送とは別に許諾が要る。許諾が取れない素材は画面を加工してでも成立させなければならない。[4] さらに、リアルタイム配信はPCとスマートフォン・タブレットのアプリのみで、テレビアプリやChromecastでは視聴できず、遅延も40秒〜1分半ほど生じ得る。[3] しかも開始前夜、新聞広告で自虐的に謝罪し、キャンペーンまで打ったことで期待値は一段上がった。[5][6] “全国”という言葉が先行した瞬間、未達は技術課題ではなく信頼課題になる。
どうやって解決しようとしたのか
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