止めずに変える決断、新3カ年計画が世界で勝つ条件になった理由

肌の上で起きる変化は、たいてい静かだ。けれど、世界の競争は騒がしい。株式会社資生堂は、過去最高水準まで伸びた手応えの直後に、あえて次の三年を「作り直す」決断を置いた。勝っているときほど、変える理由は薄れる。組織は現状維持を“賢明”と呼び、投資は“贅沢”に見え始める。それでも同社の目に映っていたのは、地域ごとに違う顧客の速度、デジタルの波、そして供給網の重みだった。追い風は、いつか向きを変える。いま止まれば、次に動くときの代償が膨らむ。春の会議室で、未来は「計画」という言葉に折りたたまれた。新3カ年計画は、勢いを偶然で終わらせず、再現できる成長の型に変えるための賭けだった。
この物語の主役となる企業はどこか
これは、株式会社資生堂の物語。化粧品領域を軸に、研究開発からブランド育成、販売までを一気通貫で担う同社は、肌科学と感性の両輪で価値を作ってきた。多層なブランドポートフォリオと、国内外にまたがる販売網は大きな資産だ。近年は中国やトラベルリテールなど、国境をまたぐ需要の伸びが、成長の輪郭を変え始める。[3] その規模は武器である一方、少しずつ意思決定の遅れや、地域ごとの最適化の難しさも生む。市場はオンライン化し、購買の場は細かく分散していく。強みは、放っておくと摩耗する。守るには動くしかない。株式会社資生堂は「美」を守るために、まず自分たちの動き方を変える必要があった。
- 勝っている時期にこそ、次の三年を作り直す意思決定が必要になる
- 顧客接点が店頭からスマートフォンへ移る前提で、ブランド体験、価格の守り方、販路の重心、情報の集め方、意思決定の速さまで同時に描き直す
- 投資の大小ではなく、評価軸(スピード/顧客価値/収益性)を先に固定し、現場と経営が同じ数字で語れる状態をつくって、迷いの時間を減らし学習の回転数を上げ続け毎週全社で確実に仕組みにする
どんな問題に直面していたのか
追い風の中にも、歪みは残っていた。2017年、株式会社資生堂は中国やトラベルリテール(空港免税店などの旅行者向け販売)で勢いを得たが、成長の源泉は地域とチャネルに偏りやすかった。[3] 伸びる場所ほど、在庫・物流・店頭人員のひずみが一気に表面化する。伸びない場所ほど、固定費が効いてしまい、利益の足腰が弱る。競合は同じデータを見て、同じ速度で学習し、広告の単価は上がる。顧客は検索し、比較し、レビューで買う。売り場の手触りだけでは、選ばれる理由が説明しきれない。ブランド数が多いほど投資は分散し、誰のための製品なのかが曖昧になりやすい。供給網もまた課題だった。グローバルで統一された運用と、地域での柔軟さを両立できなければ、売れるほどにコストが膨らむ。資本効率やキャッシュ・コンバージョン・サイクル(CCC=仕入から回収までの日数)といった足元の体質も、成長と同じくらい重い論点になっていく。[2] 放置すれば、運が良い年はあっても、次の年は揺れる。外部環境の一段の変化が来れば、勝ち筋は脆くなる。課題は「伸びているのに、伸び続ける仕組みがない」という構造そのものだった。[2]
どうやって解決しようとしたのか
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