運営を買う決断が、欧州で再エネ倍増目標を“実行”に変えた理由

電力は、静かに届くほど価値がある。だが脱炭素の潮目が変わると、設備も制度も同時に揺れ、正解の地図が白紙に戻る。三菱商事株式会社が直面したのは、燃料を扱う強さだけでは越えられない壁だった。再生可能エネルギーは天候で振れ、卸電力価格は短期で跳ねる。生活者は値上げの理由を待ってくれない。守りに入れば学びは遅れる。前に出れば代償も大きい。2020年3月、同社はN.V. Eneco社を約41億ユーロで買収し、欧州の現場を「運営」ごと抱える側へ踏み込んだ。[1]その一歩は、戻り道を消す。 買収の主題は資産の増減ではなく、変化に追随する運営速度を手に入れることだった。[1]
この物語の主役となる企業はどこか
これは、三菱商事株式会社の物語。資源から生活産業まで、世界の供給網をつなぐ総合商社として知られる。しかし電力の世界では、強い調達網だけでは勝てない。再生可能エネルギーは天候で変動し、需給は揺れ、制度は国ごとに異なる。同社は、N.V. Eneco社の買収を通じて、再エネ開発とエネルギー小売を包含する「総合エネルギー事業」を北西ヨーロッパで運営する基盤を得たと説明している。[1]発電という“点”ではなく、需給と顧客まで含む“線”として電力を捉え直したとき、次の投資の見え方が変わる。 電力を一気通貫で見た瞬間、投資の勝敗は“建てる力”から“回す力”へ移っていく。[1]
この物語では、制度産業で学習速度を上げる意思決定の型を持ち帰れる。
- 規模拡大ではなく“学習”を先に目的化する
- 現地の運営権限と本社の資本規律を分けて摩擦を減らす
- KPIを先に固定し、会議を前提の擦り合わせに終わらせない
- 失敗の手数を減らす検証点(案件・制度・顧客)を先に置く
- 節目の外部発信で次の提携を呼び込む
- 再エネから水素へまで接続する設計思想
どんな問題に直面していたのか
欧州では再エネの拡大が進む一方、発電が増えるほど電力は読みづらくなる。晴れと風で出力が振れ、余剰と不足が交互に現れ、価格は短期で跳ねる。発電だけに立てば価格変動の波を正面から受け、小売だけに立てば調達の失敗が顧客不満へ変わる。加えて、系統制約や許認可、建設コストや金利の上昇が、計画の前提を簡単に書き換える。三菱商事株式会社は、FY2030までに再生可能エネルギーの発電持分容量をFY2019比で3.3GWから6.6GWへ倍増させる目標を掲げている。[4]だが倍増とは、設備の増分だけでなく、運営の失敗余地を半分にするという意味を持つ。もし運営の器が弱いまま投資だけを積み上げれば、ヘッジの誤りは損失として表面化し、設備は“座礁資産”になりかねない。時間は味方ではない。加えて、再エネが増えるほど系統の混雑や出力抑制が起きやすくなり、設備の稼働率が想定より下がるリスクも高まる。需要側の電化が進むほど、“電源を持つ”だけでは不十分で、運営で価値を取り切る力が問われる。選択肢は狭い。 “増やすほど難しくなる電力”で勝つには、投資前に運営の器を整える必要があった。[4]
どうやって解決しようとしたのか
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