検収が止まった日、完成の定義が崩した巨大刷新の代償と引き際

訴訟125億の裏側 責任分界が曖昧だと破綻する契約論

夜の滑走路には、遅れを取り戻す方法がない。貨物は待ってくれず、予約は次の便へ移り、現場は今日を回し続ける。そんな場所の中枢を、世界で一つの仕組みに変えようとした。大義は美しい。標準化はコストを下げ、可視化はサービスを上げる。けれど巨大な刷新は、進むほど戻れない。会議室で決めた『完成』が、現場の『使える』と噛み合わないとき、歯車は静かに欠け始める。失敗は一瞬ではなく、合意が少しずつずれる音として始まる。やがてその音は、減損損失という数字になり、訴訟という言葉になる。この物語は、その変化の過程を、時系列のまま辿っていく。終わりは、意外なほど淡々としていた。

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この物語の主役となる企業はどこか

これは、アクセンチュア株式会社の物語。世界各地の企業に、戦略立案からシステム構築、運用までを一体で提供するプロフェッショナルサービス企業として知られる。[1]業界知見と技術を束ね、複雑な業務を標準化し、データで可視化し、現場に根づかせる。その得意技が、国際物流の心臓部でも試された。だが今回は、成功の定石がそのまま通らない。顧客は日本通運株式会社。対象は国際航空貨物の基幹。期限、品質、責任分界。三つの線がずれるたび、判断の重さは増していく。得意領域のはずの『全体最適』が、関係者の数だけ形を変えた。小さな認識差が積み重なり、やがてプロジェクトは中止と訴訟へ向かう。

何を学べるのか
  1. 完成の定義が揺れると、納期議論が永遠になり、品質と費用が後追いで膨らみ、関係者の摩擦も増え、テストも薄くなる
  2. 検収条件と変更管理をセットで設計すると、欠陥と追加要望が混ざらず責任分界が明確になる。その結果、議論が事実ベースになり、意思決定が速くなる
  3. 撤退基準を先に置けば、分割リリースや再計画へ早く切替でき、代替策の調達も並走し、損失と信頼毀損を最小化して炎上を止められる

どんな問題に直面していたのか

案件の狙いは、航空輸送の現場を世界で同じ言葉で動かすことだった。日本通運株式会社は国際航空貨物のグローバル共通基盤を掲げ、新・国際航空貨物基幹システムの開発を進めた。[3]アクセンチュア株式会社は、その中枢で設計と実装を担う立場に置かれた。[3]だが要件は国ごとの業務慣行と法規制を抱え、例外が標準を侵食していく。当初は2020年3月末の稼働が想定されていたが、計画は伸び、2022年2月に検収が始まったと報じられている。[3]遅れは品質を圧迫し、品質は検収を遅らせ、検収の遅れがさらにコストを押し上げる。部門ごとの『必須』が積み上がり、テスト環境もデータも追いつかない。国際物流は外部環境の変化も大きく、途中で前提が揺れる。会議は増え、判断は遅れる。『どこまでが完成か』を合意できないまま進んだことが、失敗の芯になった。やがて開発コスト増と期間延長が見込まれるとして、システム開発の断念が決定され、減損損失154億円が計上された。[2][3]この決定は、案件の失敗が会計と経営の言葉に翻訳された瞬間でもあった。その後、損害賠償を巡る訴訟に発展し、当事者の距離はさらに広がった。[3]

どうやって解決しようとしたのか

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