買って終わらせない——倍率が習慣を連れてきた“得の連鎖”の設計

値引きの号砲が鳴るたび、人は集まり、そして散っていく。買い物は増えるのに、思い出は残らない。楽天グループ株式会社は、その空虚さを何度も見てきた。勝つほどにコストは重く、負ければ次がない。必要だったのは、派手な一発ではなく「戻ってくる理由」だった。ある日、その答えは意外なほど静かに姿を現す。倍率。たったそれだけの言葉が、行動の鎖をほどき、別の鎖を編み直していく。売上ではなく“次の行動”を増やすために、物語は動き出した。
この物語の主役となる企業はどこか
これは、楽天グループ株式会社の物語。インターネットサービス、フィンテック、モバイルなど、生活のあちこちに接点を持ち、会員基盤を軸に“同じIDでつながる体験”を広げてきた。[4] 強みは規模だけではない。買う、払う、貯める、使う——日常の動詞を同じ舞台に載せられることだ。だが接点が増えるほど、利用者の頭の中は複雑になる。何を使えば得なのか、どれが自分に関係あるのか。説明が長くなった瞬間、熱は冷める。そこで求められたのは、複雑さを“短い一文”に畳む仕組みだった。会員とサービスが増えるほど、分かりやすい“得の地図”が必要になる。[4]
この物語は、ポイントを『仕組み』に変える手つきを教えてくれる。
- 入口を買い物に固定し、カードやアプリなどを“追加行動”として段階化し、説明は一文で済ませる
- 上限・対象・付与条件を先に決め、想定外のコスト増は倍率調整で止め、関係部署の合意を取りやすくする
- 流通だけで見ず、会員あたりの獲得・利用と継続率を、季節や競合セールを意識して比較し、検証の精度を上げ、学習を残して次の改善へつなげる
どんな問題に直面していたのか
ECは便利になった。だが便利さは、すぐに“当たり前”へ変わる。差がつきにくくなれば、次に起きるのは値引きと還元の競争だ。送料や物流コストの圧力も重なると、無料や値引きはさらに難しくなる。[5] 楽天グループ株式会社にとって痛かったのは、買い物が増えても“買い物だけで終わる”ことだった。会員IDは持っていても、他サービスを使う理由が弱い。すると各事業は個別に施策を打ち、説明は長くなり、ユーザーは疲れる。放置すれば、勝った日にだけ得をする短命な関係になり、原資は膨らみ、翌月には引き算が始まる。必要だったのは、値引きの連発ではなく、行動が自然に続く設計だった。「安いから買う」を、「次もここに戻る」に変えられないことが最大の問題だった。
どうやって解決しようとしたのか
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