型式指定の近道が止めた出荷と信頼、抜本改革までの58日間

58日間の出荷停止 試験条件・成績書・責任線。曖昧さが連鎖する

扉はいつも、静かに閉まる。2024年6月3日、国内で生産を続けていた3車種の出荷と販売が、いったん止まった。[1]原因は工場の故障でも、部品の欠品でもない。書類と試験のはずの「型式指定申請」が、現場の焦りと慣れに押され、少しずつ形を変えていた。[1]試験条件の扱い、成績書の作り方、誰が最終責任を負うのか。小さな曖昧さが積み重なり、国の制度そのものを揺らす形で表に出た。[4]その瞬間、掲げてきた“もっといいクルマづくり”は、まず“正しい仕事づくり”へと引き戻される。ここから先は、止めた58日間で何を変え、何を取り戻したのかの記録だ。信頼は性能より先に、手続きの正しさで試される。

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この物語の主役となる企業はどこか

これは、トヨタ自動車株式会社の物語。世界中で乗用車から商用車までを手がけ、ハイブリッド車や燃料電池車など電動化の選択肢も広げてきた。生産は国内外に張りめぐらされ、部品・販売店・物流まで含めた巨大な網が、日々の品質を支える。現地現物、カイゼン、そしてトヨタ生産方式(TPS=ムダをなくし、流れで作る考え方)という言葉は、現場の誇りでもある。一方で、自動車は安全・環境の法規制が国ごとに異なり、試験も申請も細部まで正確さを求められる。誇りと正確さ、その両立がいつも問われてきた。そして2024年、その鏡が曇った。[1] 規模は強みであると同時に、標準化の甘さを隠せない鏡になる。

何を学べるのか
  1. 制度の仕事を「誰が、何を、いつ確認するか」まで分解し、例外処理を減らすと近道は起きにくい。再現性は手順の粒度で決まる
  2. 不祥事の初動で出荷や販売を止める判断は痛いが、事実確認の速度と対外説明の一貫性を守れる。止めた期間が短いほど、顧客の不安も短くできる
  3. 現場の善意に頼らず、経営が関与する監査・記録・人材育成の循環を作ると、改善が継続する。組織が大きいほど、この橋渡しは静かにずっと効く強い

どんな問題に直面していたのか

型式指定は、クルマが市場に出る前に「安全・環境の基準を満たす」と国に示す入口だ。一度通れば、同じ型式の量産車はその前提で走り出す。だから試験は、結果だけでなく手順まで問われる。2024年6月3日、トヨタ自動車株式会社は社内調査の結果、歩行者保護や乗員保護の試験で、申請に用いるデータが不適切だったことなどを公表した。[1]国内で生産中の3車種は当日から出荷・販売を停止。生産終了車を含め計7車種が対象となり、販売店の説明、物流の調整、社内の再点検が一斉に走った。[1]翌日以降、国土交通省は立入検査で事実関係を確認し、基準適合性の精査を進めた。[2]経済産業省も制度の根幹を揺るがす行為として、対外説明と再発防止の確実な実施を指示する。[5]現場では、試験条件を示す指示や書類作成の運用ルールが明確でなく、必要な人員や時間の管理も十分ではなかったと、後に原因として整理される。[3]現場主権の文化は強いが、規定の粒度が粗いと“善意の近道”が生まれる。放置すれば、制度への信頼が落ち、審査は重くなる。顧客の安心も、販売店の誇りも削れていく。『基準は満たしている』だけでは、手続きの正しさを埋められない。

どうやって解決しようとしたのか

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  • ステップ①
    事実確認と立会試験の実施
  • ステップ②
    規程・記録・レビュー工程の整備
  • ステップ③
    監査配置と四半期報告で継続改善
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