予定を信じた新工場、減損112億円で未来図を静かに書き換える

新工場、減損112億円 品質の均一化と人材づくりの固定費が牙をむく

広い空と赤土の町、ミシシッピ州ウエストポイント。そこに立った新工場は、北米でのスピードと信頼を手に入れるための約束だった。起工式には350人以上、開所式には300人が集まり、地域と会社の期待は同じ方向を向いていた。[1][2] ところが、工場は完成しても、利益は自動で生まれない。人を育て、品質を揃え、販路の波とコストの波に耐えながら、黒字化の坂を登らねばならない。2018年、計画と実績の距離が無視できなくなった夜、静けさの中で数字だけが鳴った。派手な逆転劇はない。あるのは、現実を見て、計画を書き換える手つきだけだ。企業は、誇りを守るためではなく、未来を守るために、損失を記録する。[3]

目次

この物語の主役となる企業はどこか

これは、横浜ゴム株式会社の物語。タイヤを軸に、乗用車からトラック・バス、産業車両まで、走る現場を支える製品を世界に届けてきた。顧客は自動車メーカーだけでなく、物流や建設、農業の現場にも広がり、一本のタイヤが止まれば仕事が止まる世界と向き合う。国内では「ADVAN」や「BluEarth」などのブランドを磨き、海外では需要地に近い場所でつくることにも挑んできた。ミシシッピ州の新工場は、その象徴だ。2015年10月に操業を開始し、フェーズⅠで年産100万本・従業員500名、総投資額3億米ドルという設計図を掲げた。[2] “近くでつくる”という戦略は、成長だけでなく、失敗の責任も現地に連れてくる。

何を学べるのか
  1. 投資の計画は、稼働開始後にこそ“検証可能な仮説”へ変わり、毎月の数字が答えを突きつけ、早期の修正を促す
  2. 現地生産はリードタイムや為替影響を抑える一方、品質ばらつき・歩留まり・設備の慣らし運転・部材調達・現場の人材育成という時間コストを正面から受ける
  3. 減損の判断は敗北宣言ではなく、前提を切り替え、投資家への約束の言葉を揃え、次の成長投資を守るための資本配分を再設計する行為にもなる

どんな問題に直面していたのか

北米のトラック・バス用ラジアルタイヤは、市販(交換)需要が厚く、物流が止まらない限り回る。横浜ゴム株式会社はその市場で、輸入に頼らず、より速く届ける拠点を求めた。2013年にミシシッピ州で起工し、初期設備投資は3億米ドル、年産100万本以上を掲げた。[1] 工場の完成は2015年。操業開始は同年10月、フェーズⅠで従業員500名という大きな船出だった。[2] しかし、製造業の“最初の100万本”は、紙の上の100万本と別物だ。設備が揃っても、人が揃うまで時間がいる。品質の安定、歩留まり、技能の継承、顧客が求める仕様に合わせた生産計画――それらが少しずつ遅れると、損益分岐点は遠のく。それでも建屋と機械は止められない。止めれば固定費は残り、続ければ立ち上げ損が膨らむ。2018年、開業時の計画と比べ収益化に遅れが見え、今後の事業計画と回収可能性を慎重に検討せざるを得なくなった。このズレを放置すれば、資本は次の成長投資を縛り、外部への説明も鈍る。ついに通期の業績予想を修正する場面にまで至った。[3] 投資の理屈が崩れたのではなく、時間と現場の摩擦が、回収の前提を静かに書き換えた。

どうやって解決しようとしたのか

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