海図を書き換えた七月七日、航路統合に賭けた日本郵船の決断

航海の再設計で勝つ 赤字の連鎖を断ち切るために海図を書き換えた七月七日

海は静かでも、運賃の数字は荒れていた。巨大船が増え、荷主は世界規模の網を当然のように求める。日本郵船株式会社は、定期コンテナ船という“顔”を守りながら、赤字の連鎖を断ち切らねばならなかった。ある日、航路そのものを一本に束ねる案が机に置かれる。社名も船体も変わる。誇りも痛む。だが、先延ばしは沈没に近い。競争法の承認、システム統合、現場の混乱。乗り越える壁は多い。それでも舵を切れば、荒波の先に“配当”という形で凪が見えるかもしれない。2017年7月7日、統合のための新会社を立ち上げることで、賭けは現実になった。結果はすぐに出ない。だからこそ、この決断の“因果”を辿る。

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この物語の主役となる企業はどこか

これは、日本郵船株式会社の物語。外航海運を祖業に、世界の港をつなぎながら、コンテナ船、バルカー、自動車船、物流まで幅広い機能を持つ。海運は、景気と燃料と地政学で波が立つ。だからこそ同社は、一つの事業だけに寄りかからず、複数の船種と陸上物流で稼ぎ方を分散してきた。法人向け物流を担う裏方として、名前が表に出ない仕事も多い。見えないところで動くのは、船だけではない。コンテナの回送、港のターミナル運営、予約と請求の仕組み。その一つでも止まれば、荷主の計画は崩れる。その緊張が、今日の決断を呼んだ。だから同社の仕事は、海の上の輸送ではなく、約束の履行そのものだ。

何を学べるのか
  1. 荒波の市況で、撤退でも我慢でもない第三の道を描く。視界が悪いほど、期限と条件を書き出す。判断軸は三つまでにする。迷いを短くする。会議を終える
  2. 統合で失うものを先に数える。窓口、請求、遅延説明など、荷主が触れる品質を定義する。曖昧な品質は後でコストになる
  3. 承認と運用を先に固めると、大きな変化でも現場は崩れにくい。そのために締切と責任線を一本にする。そして説明の速さをKPIに入れる

どんな問題に直面していたのか

2010年代半ば、定期コンテナ船は“量のゲーム”に傾いた。欧州航路を中心に大型船投入が続き、需要の伸びが鈍ると運賃はすぐ崩れる。日本海事センターの寄稿では、船腹量の伸びが荷動きを上回る局面が続き、採算の揺れが常態化したことが示されている。[1] 荷主側は、単に安い船腹よりも、遅延時の代替や寄港地の多さを重視し始めた。同盟(アライアンス)で穴を埋めても、船社の組み合わせが変われば現場の運用は揺れる。一社で航路網を広げるには船隊も投資も足りない。だが縮めればサービスは痩せ、さらに荷は離れる。船と港の約束は数年単位で結ばれ、供給調整は遅い。だから一度崩れると戻りにくい。その間に、顧客は別の船社へ静かに移る。コスト削減も限界がある。船は止められても、港の契約、コンテナの回送、ITの保守は残る。日本郵船株式会社にとって、赤字を我慢しながら続けるのは資本の消耗であり、撤退は顧客接点と人材の喪失を意味した。つまり問題は、景気の波ではなく、単独では“規模の条件”を満たせない構造そのものだった。ここで迷えば、会社の他の成長投資まで潮にさらされる。だから時間は味方ではなかった。

どうやって解決しようとしたのか

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